むかしむかし、高館山(たかだてやま)に今(いま)も残(のこ)る城(しろ)あと。ここは代々 (だいだい)、伊達家(だてけ)の居城(きょじょう)として勢力(せいりょく)を張(は)っていた所(ところ)で、山(やま)の北側(きたがわ)の深(ふか)い谷(たに)を挟(はさ)んで産ケ沢川(うぶがさわがわ)が東(ひがし)に流(なが)れている。内之馬場(うちのばば)の北側(きたがわ)に輪王寺山(りんのうじさん)、その麓(ふもと)の方(ほう) に蘭梅(らんばい)という小字(しょうじ)がある。
そこに、年寄(としよ)りが一人(ひとり)でひっそりと暮(く)らしていた。一人暮(ひとりぐ)らしといっても、そこは隠居部屋(いんきょべや)だった。
ある夜更(よふ)けのこと、何処(どこ)か遠(とお)くの方 (ほう)から、「おーい。おーい。」という呻(うめ)き声(ごえ)に近(ちか)い呼(よ)び声(ごえ)が聞(き)こえて来(き)た。
年寄(としよ)りは、不審(ふしん)に思(おも)ってなおも耳(みみ)を澄(す)まして聞(き)いていると、それはどうやら高館(たかだて)の方(ほう ) からのようであった。
「おーい。おーい。聞(き)っこえっかあ。黄金千杯朱千杯(おうごんせんばいしゅせんばい)、三ツ葉(みつば)うつぎの下(した)にある。早(はや)く来(き)てえ掘(ほ)って見(み)ろ。」と聞(き)こえて来(き)た。
「なんのことだべ、何事(なにごと)なんだべ。」と思(おも)って年寄(としよ)りはおっかなくなってその夜(よる)はとうとうぐっすり眠(ねむ)れなかった。
何(なん)のことかはさっぱり見当(けんとう)もつかなかったが、その声色(こわいろ)と文句(もんく)は頭(あたま)から離(はな)れなかった。ようかい妖怪(ようかい)であったべか、とたった一夜(いちや)の呪文(じゅもん)めいたものを聞(き)いたことは誰(だれ)にも語(かた)らずに年(とし)を過(す)ごした。そのうち持病(じびょう)が進(すす)んで、離(はな)れから母屋( おもや)に戻(もど)るように言(い)われても決(け)して戻(もど)らなかった。もうそう長(なが)くはないと思(おも)われた頃(ころ)に、年寄(としよ)りは家(いえ)の人達(ひとたち)の集(あつ)まっている所(ところ)で、「俺(おれ)は、実(じつ)は今(いま)から何年(なんねん)も前(まえ)の夜中(よなか)に、『黄金千杯朱千杯(おうごんせんばいじゅせんばい)、三っ葉(みつば)うつぎの下(した)にある。早(はや)く来(き)てえ掘(ほ)って見(み)ろ。』つうの聞(き)いた後(あと)から少(すこ)しずつ按配(あんばい)が悪(わる)ぐなって来(き)た。何事(なにごと)だか探(さが)して見(み)で呉(く)れろ。」と言(い)い残(のこ)して、まるでこの謎(のぞ)めいた呪文(じゅもん)みたいなのを遺言(ゆいごん)のようにして息(いき)を引(ひ)き取(と)ってしまった。
このことは半田銀山(はんだぎんざん)の繁昌(はんじょう)などといっしょになって近隣(きんりん)の村々(むらむら)にまで知(し)れわたり、「何(なん)でも半田山(はんだやま)には、むかしに宝物(たからもの)が埋(う)められたところがあって、今(いま)もめっかってないんだと。」といわれて、忘(わす)れたころにこの話(はなし)がもちあがり、宝探(たからさが)しに入(はい)る人(ひと)が実際(じっさい)にいる。
「明治維新(めいじいしん)になる前(まえ)にかくしたんだど。」とか、「徳川(とくがわ)さまの威勢(いせい)のいいときにかくしたんだ。」とか、その話(はなし)はまちまちだが、だれもが「三つ葉(みつば)うつぎの下(した)。」に見当(けんとう)をつけているのはたしかだということである。
(半田むかし・むかし6)